大判例

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東京高等裁判所 昭和44年(ツ)85号 判決 1970年2月25日

上告人

宇田秀太郎

被上告人

鈴木定央

外一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

上告人は原判決全部を破毀する旨の判決を求め、上告理由として後記のように主張した。これに対する当裁判所の判断を順次説示する。<省略>

第三点について

上告理由第三点は「原判決は判決理由三2(二)で、控訴人(上告人)は本件建物が建築関係の法令に違反して建築されかつ無効な分割登記がされているから、借地権者が違法な権原によつて土地に付属せしめたものとはいえないと主張するが借地法一〇条にいわゆる『借地権者が権原により付属せしめた』というのは、買取請求の対象となる物件に付属せしめた者が有効かつ適法に敷地の借地権を有していたことを必要とする趣旨であつて、仮に控訴人が主張するような事実が存在するとしても、そのことによつて買取請求権の発生が妨げられるものではないと認定している。しかし、借地権者が権原により付属せしめたというのは、法律的または事実的行為をなすを正当ならしめる法律上の原因があることを要する。したがつて借地権者が土地に家屋を建築するには建築法令に基づいて行政庁に許可確認を申請しなければならない。法規に違反した建物は法律上の効果を生じないし、買取請求の対象とならない。本件土地の建蔽率は四〇パーセントである。したがつて本件土地(三五坪)については一四坪の建物しか建築はできないから、本件建物のうち四坪と隣家一〇坪の計一四坪が、中島松吉が権原により取得した建物である。なお本件建物は昭和二一年一月頃建築したバラック建であるから、一〇年を経過した現在では買取請求の対象とならない。原判決の如き認定は、行政上の行為について裁判所が判断することになつて不適法であり、建築基準法五五条に違背する。」というのである。

中島松吉の建築した本件建物が、被上告人鈴木の買取請求当時建築基準法に違反する建物であつたかどうかは、原審の判断していないことがらであるけれども、もしこれが上告人主張のような違反建物であるとしても、そのために違反部分についての買取請求あるいは全部の買取請求が無効となることはない。けだし借地法一〇条の買取請求権は、借地権の承継がおこなわれないことによつて生ずる地上建物の収去という社会的損失を防ぎ借地人の投下資本を回収させることを目的とする制度であつて、防災、衛生、美観等の見地から建築基準法による建築の規制とは、おのずから目的を異にするものである。したがつて、同法による規制に沿わない建物であつても買取請求当時所轄行政庁から違反に対する是正措置として除却、移転、使用禁止等が命ぜられている場合以外は、請求の効果としての売買の成立を認めることが制度の目的に沿うゆえんである。そうして、買取請求当時右以外のなんらかの命令が出されているときは、建物価格の評価の際これを考慮すれば足り、所有権移転ののちに買受人に対してなんらかの行政処分があつたときは、買受人は目的物の瑕疵を理由に売渡人に損害賠償の請求をする途があると解されるから、買受人の保護に欠けるということもない。以上の点ならびに一〇年経過による買取請求権消滅の点に関する上告人の主張は独自の見解であつて採用することができない。また、本件は建築確認という行政処分の法律効果を争う訴訟でもないし、原判決はその点の判断をしているわけでもないから、上告理由の末尾の主張はそれ自体失当である。《後略》(近藤完爾 田嶋重徳 吉江清景)

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